J-SUPPORT1604(J-FORCE試験)から、その先へ ― CINVに対するオランザピンの糖尿病患者への使用に関する禁忌解除 ―
J-SUPPORT1604(J-FORCE試験)終了後の研究者による取り組みを紹介いたします。
J-SUPPORT1604(J-FORCE試験)によるエビデンスの確立
抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐(化学療法誘発性悪心・嘔吐:CINV)は、がん患者さんの治療継続や生活の質に影響する代表的な副作用です。
J-SUPPORT1604(J-FORCE試験)では、静岡県立静岡がんセンター 婦人科(現 浜松医科大学医学部産婦人科)安部正和先生、国立がん研究センター中央病院 薬剤部 橋本浩伸先生が中心となり、オランザピンを用いた制吐療法の有用性をプラセボ対照ランダム化第III相比較試験で検証しました。
その結果、シスプラチンを含む高度催吐性リスクの化学療法に対して、従来の標準制吐療法にオランザピン5mgを追加することで、悪心・嘔吐を持続的に抑制できることが示されました。
具体的には、悪心・嘔吐の研究で最も重要な指標である嘔吐完全抑制割合(嘔吐しない、かつ、追加の吐き気止めがいらない患者さんの割合)において、成績の改善が求められている遅発期(抗がん剤開始から2〜5日目)の割合を13%改善し(Hashimoto H, et al.: Lancet Oncol. 21(2): 242-249, 2020)、従来の標準制吐療法にオランザピン5mgを追加する制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスク化学療法に対する標準制吐療法になりました。
糖尿病患者における使用上の課題
一方、オランザピンは精神科領域での使用において重篤な高血糖関連有害事象が報告された経緯から、糖尿病患者および糖尿病の既往歴を有する患者への投与が禁忌とされていました。そのため、CINVに対してオランザピンを使用する場合においても、糖尿病を併存するがん患者さんは投与対象から除外されるという臨床的な課題がありました。
J-FORCE試験終了後の研究者による取り組み
この課題について、J-FORCE試験を計画した安部先生と橋本先生は、試験終了後も検討を継続し、オランザピンの治験データ、国内で行われたオランザピン5mgを含む制吐療法を検証した第III相試験の血糖値データ、オランザピンを使用した国内外のランダム化比較試験の文献を調査し、安全な使用条件について検討を重ねました。
その結果、入院下で血糖コントロールが良好な患者を対象とし、緊急時に対応可能な医療体制を確保した上で、投与前および投与中に血糖モニタリングを実施するなど、適切な管理を行うことを前提とすれば、CINVに限り糖尿病患者への投与が可能ではないかとの結論に至り、禁忌解除に向けた取り組みを進めました。厚生労働省医薬局医薬安全対策課と医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を経て、この要望は一般社団法人日本癌治療学会を通じて「オランザピン(抗悪性腫瘍剤による悪心、嘔吐に対して投与する場合)の糖尿病患者に対する投与禁忌の改訂についての要望書」が提出され、令和8年度第5回医薬品等安全対策部会安全対策調査会において添付文書改訂が承認されました。
参考:厚生労働省・会議資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74963.html
参考:資料1-1「オランザピンの『使用上の注意』の改訂について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001729685.pdf
CINVに限った禁忌解除
これらの検討を経て、CINVに使用する場合に限り、糖尿病患者および糖尿病の既往歴を有する患者に対するオランザピンの投与禁忌が解除されることとなりました。なお、今回の変更はCINVに限るものであり、統合失調症、双極性障害等の他の効能・効果における糖尿病患者等への禁忌は維持されます。
今回の禁忌解除は、J-FORCE試験の結果のみから直接導かれたものではありません。J-FORCE試験終了後も、糖尿病を合併する患者さんの治療選択肢を広げるために研究者が継続して検討・働きかけを行ったことが、その後の禁忌解除につながったものです。
適正使用について
禁忌解除後も、糖尿病患者へのオランザピン投与には適切な血糖管理が必要です。CINVに使用する場合は、入院下での血糖管理、投与前および投与中の頻回な血糖モニタリング等、定められた安全管理を行うことが重要です。糖尿病患者に対する使用にあたっては、日本癌治療学会が公表している以下の資料も併せてご参照ください。
日本癌治療学会 2026年08月25日 制吐薬適正使用ガイドライン速報発信のお知らせ
・制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理について(制吐薬適正使用ガイドライン速報版)
・制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理について(要約版)
・”抗がん剤治療による吐き気止めとしてオランザピンを処方された患者さんへ”2026年版
J-SUPPORTは、臨床研究を通じたエビデンスの創出に加え、研究成果を臨床現場に還元し、患者さんの治療選択肢の拡大につなげることを目指して、今後も臨床研究を支援してまいります。
